2013年6月26日水曜日

第18回 謎の用語「ゲーム性」を説明してみた(3)~高けりゃいいってもんじゃない編

 やっほー。かいぽんです。

 前回前々回にひきつづきゲーム性のお話しですよー。
今回は、ゲーム性は高ければいいってもんじゃない。というテーマになります。
 ではいってみよー!


ソニックブラストマン


 古い作品だが、「ソニックブラストマン」というパンチングゲームの例をみてみよう。みなさんも、一度は街のゲームセンターでみたことがあるはずだ。

ソニックブラストマン ©TAITO CORP.


 このゲームのストーリーは明快だ。「あなたはスーパーマンとなってさまざまな災厄から町の人々を守る。それもパンチ3発で。」

 広義のゲーム性(ゲーム体験)はこうだ。「パッドを殴ると、TV画面の中のターゲットが壊れていく」「スカッと殴ってストレス解消」

 狭義のゲーム性(ゲームメカニクス、ゲームルール)はさらに単純だ。「パンチ3発の合計値が既定値を超えていればクリア。そうでなければゲームオーバー」「難易度は5種類から選べる」。これだけ。ほかにはなにもない。

 そのゲーム性(ゲーム度)の評価はどうだろうか。ゲーム性(ゲーム度)は極めて低い。アホのように低い。むしろゲームかどうかすら微妙なレベルだw

 にもかかわらず、この単純きわまりないゲーム「ソニックブラストマン」は市場で人気を博した。稀代のバカゲー?として面白さは評判になり、20年以上を経た現在でも多くのプレイヤーの記憶に残っている。(なお現代風にリニューアルされたリメイク最新作もあるよ!)


 ソニックブラストマンの例でいえば、たとえば「タイミングをはかってパンチを出すと高得点」「RPG要素を加えてパンチ力が成長していく」などのゲームルールを追加することも可能だったろう。実際に制作当時にそういうアイデアもあった。だがそれらのアイデアは冗長な蛇足だ。ゆえに捨て去られた。

 ソニックブラストマンは、狭義のゲーム性(ゲームメカニクス)を単純にし、ゲーム度を下げたことによって逆に面白さが研ぎ澄まされたゲームの例なのだ。(ぼくはこの端的な事実に非常に強い感銘を受けている)


 ではゲーム性は単純なほうがいいのか? さにあらず。こんどは複雑なゲーム性のゲームをみてみよう。


麻雀


 次に、テーブルゲームの代表格「麻雀」を例にとってみる。

 狭義のゲーム性(ゲームメカニクス、ゲームルール)は複雑極まりない。使用する牌だけで34種類。ゲーム進行や得点システムなどは一見ではまったく意味不明なほど入り組んでいるうえ、専用用語など覚えることも多い。

 にもかかわらず麻雀が人気ゲームとなっている背景には、広義のゲーム性(ゲーム体験)がシンプルでわかりやすい、という点にもある。すなわち「たくさん和了った(あがった)奴がえらい」「あがるかあがられるかのスリル」「点棒を多く持ってる人が勝つ」という分かりやすさがある。

 麻雀のゲーム性(ゲーム度)は、高いといえる。ほぼ無限のゲーム局面に対し、プレイヤー間のかけひき、不完全情報ゲームとしてのバランスがとれており、意志決定の機会数・選択肢ともに豊富である。ひとことでいえば、非常に頭を使うゲームだ。にもかかわらず、運次第で大勝ちもできる懐の広さもある。


 えっと、じゃあ、結局のところ、広義のゲーム性がシンプルならいいってこと? さにあらず。こんどは広義のゲーム性が複雑なゲームの例をみてみよう。


サッカー


 「サッカー」は世界的な人気スポーツだ。スポーツではあるが、その体裁は明らかにゲームだ。

 狭義のゲーム性(ゲームメカニクス、ゲームルール)は実に単純である。「ボールを相手ゴールに蹴り込めば1点」「ゴールキーパー以外は手を使ってはいけない」など、そのルールは子供でも容易に理解できるほど簡単だ。

 わかりにくいといわれているオフサイド・ルールも、その意味はシンプルである。(ちなみにオフサイド・ルールが一見難しくみえるのは、オフサイド・ラインの定義がちょっと複雑だからである)

 いっぽうで、サッカーにおける広義のゲーム性(ゲーム体験)の魅力をひとことで語るのはなかなかに難しい。サッカーのなにがどうおもしろいのか。「華麗なテクニックとスピード感」「クリエイティブな戦術」「予測不能でダイナミックな試合展開」などなどが挙げられるが、なんだかもやっとしている。

 サッカーには引き分けもあるので、「ゴールの数で勝ち負けが決まる」という素直さもない。0-0のスコアレスドローの試合でも面白かった!という場合の魅力を、どう説明すればいいのか悩む。

 サッカーのゲーム性(ゲーム度)は、高いようにみえる。めまぐるしく変化するゲーム局面。プレイヤー同士のかけひきが生み出す戦術には無限のバリエーションがあり、鍛えられたプレイヤーのフィジカルとクリエイティビティから繰り出されるゴールシーンの爽快感は格別だ。

 サッカーは、プレイするものにとってはもちろん、観戦者にとっても熱狂的におもしろいスポーツであることは間違いない。しかしそのゲームメカニクス(ゲームルール)は、ソニックブラストマン並みに単純である点に留意してほしい。サッカーはあきらかに、単純なルールから複雑な局面が創発されるゲームなのである。


まとめ


 以上、3つのゲームの例をみてきた。

 ゲーム性が低いものも、高いものも、複雑なものも、単純なものも、それぞれに面白さがある。

 必要なのは、ゲームを複雑にすることではない。かといってシンプルにするべきということでもない。

 ゲームをデザインする作業においては、ゲーム性をそのゲームの目指すところにおいて、意図をもって、最適な質と量にコントロールすることが最も重要かつ必要なのである。

 その意味において、ゲーム性はただ高ければいいってもんじゃないのである。というのがぼくの結論。ゲーム性をあえて落とすのもひとつの選択肢なのである。勇気をもってやろう!


 さて、今回のお話しはどうだったでしょうか。今回は文体がちょっと硬かったネ。あと麻雀とサッカーの話はちょっと強引だったかもしれないけど、言わんとするところはわかってもらえたんじゃないかと思います・・・。

 それではみなさんまた会いましょう。まったねー!

2013年6月23日日曜日

第17回 謎の用語「ゲーム性」を説明してみた(2)~解決編

 こんちゃーす。かいぽんです。

 「ゲーム性」・・・ おそろしい言葉だ。だが、ゲームデザイナーとして、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ・・・


 前回の問題提起編と同様、ゲームデザイナーとして避けては通れない道、「ゲーム性」という言葉の定義に、完全かつ最終的な説明をつけるべく、今回もがんばります!


 では早速ですが、次の例文をごらんください。この例文ですべてが説明できるかと思ってます。

 「宝くじのゲーム性とは、高額賞金が当たるかドキドキしつつ待つことにあり、

 そのゲーム性は、抽選により当選番号が定まることである。

 総じて、宝くじのゲーム性は低いといえる。」


 な、なにをいっているかわからねーだろうが、頭がどうにかなってしまわないよう解説しますね。

 「ゲーム性」という用語を使う場合、その文脈によって以下の3つの意味に大別できると考えています。

  1. 広義のゲーム性 = fun factor
  2. 狭義のゲーム性 = core game play mechanics
  3. 面白さを表す尺度 = ゲーム度(※個人差あり)


1.広義のゲーム性


 そのゲームの何がおもしろいのか。ゲームプレイでなにを楽しめるのか。というオーバービューでみたとき、そのゲームが提供する楽しさが何か?を表すものが「広義のゲーム性」といいます。

 宝くじでいえば、「くじが当たるかどうかドキドキする」「夢を買う」という楽しみがありますが、これが広義のゲーム性にあたります。

 このゲーム、なにがおもしろいの?なにが楽しめるの?どういった体験ができるの?と問うたときに返ってくる答えが、広義のゲーム性なのです。

 広義のゲーム性は、ほぼ客観的な要素であり、基本的には得られるユーザー体験を形容詞や動詞で表現するものになるといえます。商品性と言い換えてもよいでしょう。


2.狭義のゲーム性


 ゲームルールやゲームシステム、操作性やUIなど、ゲームを構成する各要素やその噛み合いなどを表すものが、狭義のゲーム性といえます。そのゲームの楽しさをどうやって?作り出しているか、というメカニズムを表します。

 宝くじの例では、当選番号が完全にランダムで決まり、その前後賞などがある、というのが狭義のゲーム性にあたります。

 このゲーム、どういうルールなの?どういう仕組みになってるの?という問いの答えが、狭義のゲーム性といえます。

 狭義のゲーム性も、ほぼ主観の入る余地のない客観的な要素であり、具体的なゲーム仕様などを名詞や数値などで表現することができます。


3.面白さを表す尺度(ゲーム度)としてのゲーム性


 ゲーム全体で見て(広義のゲーム性と狭義のゲーム性とを鑑みて)、そのプレイヤーにとってそのゲームまたはゲーム要素がどのぐらい?面白いかを表す尺度で、「ゲーム度」あるいは「ゲームおもしろ度」と言い換えるとわかりやすいかと思います。

 前2つのゲーム性とは違って、このゲーム度は尺度です。指標です。

 さらにはこの「ゲーム度」という指標には完全に個人差があります。評価者がどう見るかによって、尺度のスケールが変わってきます。他の2つの「ゲーム性」とは違って、ゲーム度はどうしても主観的なバイアスがかかってしまうのです。

 宝くじの例でいいますと、買ったら待つだけ、ランダムで当たりが決まる。ゲーム的要素がなにもない(ゲームっぽさがない)、すなわちゲーム度は低い(ゲーム性は低い)と評価する人がいるとします。

 そのいっぽうで、当たればリターンが大きい、ドキドキして射幸心が煽られる、これはむしろゲーム度が高い(ゲーム性が高い)、と評価する人もいます。

 このように評価が180度異なってしまってしまう場合がでてきます。しかもどちらが正しいとも言いがたい。

 なぜこんなことになるのか。広義のゲーム性と狭義のゲーム性のどちらにウエイトを置いて評価するかによって、結果が変化してしまうためです。そのゲームをみる立ち位置によってまさに千差万別の評価になってしまうわけですね。というか、広義のゲーム性があることによって、ゲーム度は評価者個人の主観の影響をどうしても免れません。

 いずれにせよこの「ゲームの面白さを表す尺度」は主観性の高い指標であり、ここに「ゲーム性」なる言葉を使っていることが、巷のゲーム性論争を混乱させる要因のひとつになっていることは否めません。

 そのために、この3番目の意味での「ゲーム性(ゲーム度)」は、ゲーム性の定義から明確に除外すべきだ、という意見もあります。ぼく自身は、現実として世間でそのように使われてるので除外しようがない、とは思ってますが。



 駆け足でしたが以上が解説となります。ゲーム性という言葉で表されるものは、この3類型で全部かな、と思います。

 ここでもういちど冒頭の例文をみてみましょう。


 「宝くじのゲーム性とは、高額賞金が当たるかドキドキしつつ待つことにあり、

 そのゲーム性は、抽選により当選番号が定まることである。

 総じて、宝くじのゲーム性は低いといえる。」


 今度は文脈がちゃんと読み解けましたでしょうか。宝くじファンの方は、ゲーム性は高いといえる、と読み替えてもらっても差し支えありません。


混乱の元凶は


 「ゲーム性論争」はなぜ紛糾するのでしょうか。またなぜうまく表現できないのでしょうか。

  • 前後の文脈を読み取れず、その時のゲーム性の持つ意味を取り違えてしまう。
  • 「広義のゲーム性」と「狭義のゲーム性」の間にグレーゾーンがある。また内容がかぶってしまうことがままある。
  • 「面白さを表す尺度(ゲーム度)」に個人の主観が入る。


 という3大原因によって、混乱に拍車がかかってしまうといえます。

 2番目の「広義のゲーム性」と「狭義のゲーム性」の内容がかぶってしまうケースとは、たとえば、「手にぴたりと吸い付くようなダイレクトかつクイックな操作感を楽しむゲーム」という狙いのゲームタイトルがあった場合、広義のゲーム性でも狭義のゲーム性でも、その両方に操作感という評価要素が出てきます。

 この場合には文脈によってどちらのゲーム性における操作感なのか、ややこしいうえにあやふやになりがちです。ゲームによってはそういうことがままあります。

 また、「広義のゲーム性」という文脈にはたとえば「超絶美麗CGを楽しむ」といった要素も含まれることになります。ここでおもに狭義のゲーム性に特にこだわる人々にとって、「おい、グラフィックとかゲーム性に関係無いだろ!」という誤解と混乱を生むこともしばしばです。

※なお、グラフィックはいまやゲーム性に多大な影響を与える重要な要素として認識されています。狭義のゲーム性においても、グラフィックがゲームメカニクスに及ぼす影響には多大なものがある。というのがいまや一般論になっているかと思います。

まとめ


 さて、今回は「ゲーム性」の定義について、完全かつ最終的な説明をして試みよう!と大上段に構えてみたわけですが、いかがでしたでしょうか。最終的とかいいつつ、gameplayとfun factorの違いについてはあいまいなままなので、もうちょっと詰めて考える必要がありそうだということにいま気付きました。たはは。

 「ゲーム性」という言葉は、前後の文脈でその意味が変わってきます。ぼく自身は、よけいなコミュニケーションロスを生まないために、なるべく「ゲーム性」という言葉を使わないよう推奨しますが、もし誰かが「ゲーム性が~」と言ってきた場合には、文脈をとらえて正しく理解することが大事だと思っています。

 ただし!そのときの注意。「おたくのいうそのゲーム性って、どういう意味でのゲーム性よ?」などと逆質問してはいけません。ダメ!絶対!不毛な宗教論争がはじまりたいへんな時間のロスになってしまう可能性が高いです。ふんふん、と聞き流す体で適宜に解釈してあげましょう。


 「ゲーム性」という言葉のもつ3つの意味を正しく解釈して使いこなせれば(なるべく口には出さずに頭の中でね!)、これはゲーム制作における羅針盤としてとても有効な処方箋になるでしょう。しかし混同して使ってしまうと、薬も毒になってしまいかねません。ここが悩ましいところ。

 本ブログ読者のみなさんにおいては、ゲーム性のもつ3つの意味をよく吟味して、ゲームの分析や評価にぜひ活用していただければ、と願っています。

 そしてもしこんがらがったときには、この宝くじの例を思い出してネ!そしたら大丈夫だよ。あと、そもそも宝くじってゲームなの?って疑問を持っちゃダメだよ。コスティキャンの定義ではゲームじゃないってことになりますが?などと言ってはダメ!絶対!世の中はすべてゲームなんだから。

・・・

 今回のお話しはどうだったでしょうか。ちょっと難しかったネ。解決になったかな?

 さて、このお話は、あともう一回続きます。(なんと!)
次回は、「ゲーム性は、高けりゃいいってもんでもないんだよ~。」というお話しです。お楽しみに!それではさようなら~

2013年6月22日土曜日

第16回 謎の用語「ゲーム性」を説明してみた(1)~問題提起編


 ヒャッハー!かいぽんです。

 今回はゲームデザイナーが避けては通れない謎の用語「ゲーム性」についてのお話しです。ついにキタ!この話題!

 このブログでは、この「ゲーム性」という言葉に、完全かつ最終的な説明をつけよう~!と考えています。おおっ?! が、まずはその前知識として「ゲーム性」ってなんで謎の用語なの?という話からどうぞ。

あやふやな「ゲーム性」という言葉


 「ゲーム性」という言葉は、しばしばそのあやふやな定義が問題となり、過去長年ゲーム制作現場を悩ましてきました。

 ある著名ゲームデザイナーをして「安易にゲーム性という言葉を使うやつは信用ならん!使用禁止!!」とまでいわしめた逸話もあるぐらいです。


 ゲーム性が、高い←→低い
 ゲーム性が、深い←→浅い
 ゲーム性が、豊富←→乏しい
 ゲーム性が、複雑←→単純
 ゲーム性が、厚い←→薄い
 ゲーム性が、優れてる←→劣っている
 ゲーム性が、熱い!←→クソ!
 ゲーム性が、尖ってる←→ありふれてる etc.etc...

 「ゲーム性」をあらわす尺度だけでも豊富にあり、なにがなんだかよくわかりません。


 誰かが(しばしばディレクターやプロデューサーが)

  「ちょっと~、これなんだよ?!ゲーム性最悪だろおい」

 と言ったとき、なにをどう修正すればゲーム性が最悪ではなくなるのでしょうか?操作性?難易度?ゲームシステム?アイテム配置?さっぱり具体性が見えませんよね。

 「ゲーム性」という言葉が、あいまいな定義で濫用されることにより、開発現場でのコミュニケーションロスや作業精度の悪化など、悪影響が無視できないレベルで発生しかねないわけです。

 さすがに近年では「ゲーム性」という言葉の定義がある程度明確になってはいるものの、その使い分けの難しさゆえ、また個人ごとの解釈のブレなどもあり、依然として現場に混乱を呼ぶことは避けられていません。

 このように、「ゲーム性」という単語は、忌み嫌われ、頭の悪いバズワード扱いになっているのが現状です。



「ゲーム性」定義の歴史


 「ゲーム性」という言葉を定義するにあたって、過去に様々な議論があったようです。歴史をなぞるととてもとても長くなるので、手短に結論だけまとめれば、だいたい以下の6グループに分かれたかんじと理解しています。

  • そもそもまずゲームとはなんぞやという定義が必要なんじゃないの派(循環派)
  • 俺様定義ではこれこれこうだ派(俺様原理主義派)
  • みんなが勝手に俺様定義して乱立してるから定義すること自体にもう意味ないよ派(あきらめ派)
  • そんなの個人個人が勝手に定義すればいいじゃん派(個人尊重派)
  • もうめんどくさいから「ゲーム性」って言葉使うなよ派(使用禁止派)
  • 広義のゲーム性と狭義のゲーム性ってことで決着しなよ派(穏健派)

 ちょww俺w複数にあてはまるwwwって猛者の方もおられると思いますが、まあそれはそれとして。


ところで海外ではなんて言ってんの?


 海外には、そのまま「ゲーム性」に相当する言葉がありません。なんとびっくり!

 海外ゲームローカライズを数多く手がけている英語堪能なプロデューサー・長谷川亮一氏に聞いてみました。
「日本語の「ゲーム性」はあまりにも広義で直訳はありません。強いて言えば "gameplay" か "fun factor" あたりが近いかと。純粋にシステムに限定するなら "core game play mechanics" ですかね。」
 だそうです。英語はわかりやすくて混乱がなくていいですね~。海外ゲームの出来がいいわけですわ。

 なにしろコア・ゲーム・プレイ・メカニクス!ですからね。CGPM!かっくいいネ。


 今回は残念ながらここまで。
 さて次回では、なぜ日本ではこんなに混乱してしまうのか、そして「ゲーム性」の完全かつ最終的な説明とやらは何か。それを華麗に!わかりやすく!紐解いてみます。乞うご期待!

2013年6月21日金曜日

第15回 「おぼん効果」の不思議~命名はだいじだよ


 かつてぼくがタイトー時代に受講したある社員研修にて、つぎのような講義があった。


講師 「取引先のお客さんが応接室に来社したので、お茶出しをすることになった。

講師 「社員Aは、湯呑みを手で掴んでお茶を持っていった。

講師 「社員Bは、湯呑みをお盆に載せて運んだ。

講師 「どちらの社員も同じお茶を持っていったが、どちらのやりかたがより丁寧に見えますか?

    答えは、社員B。お盆に湯呑みを載せていった方が、明らかに丁寧なおもてなしですね。
    
    さてここで問題です。

     なぜ湯呑みをお盆に載せたほうが、手づかみよりも丁寧に見えるのでしょう?
    誰か説明できる人はいませんか?


受講者一同 「・・・・・(ざわっざわっ」


俺 「・・・それは、いわゆる”おぼん効果”・・・というやつですね


受講者一同 「し・・・知っているのか、雷電!」


 おぼん効果というのは、その場でひらめいた即興の造語である。そのとき命名した。


 おぼん効果仮説による説明では、社員Aの行為はおぼん効果指数が低く、社員Bのケースはおぼん効果指数が高い状態だといえる。そしておぼん効果指数が高ければ、丁寧さも比例して上昇するのである!


 ここで注意すべきは、そもそもお盆を持つと何故おぼん効果が増大するのか、という疑問である。これははじめの問いの変形にすぎない。すなわち問題がすり替わって循環しているだけである。しかしそれでもおぼん効果と命名するその価値はある。

 お盆による丁寧さ発生メカニズムの真相解明はともかく、お盆を持つ→丁寧さがあがるという現象に「おぼん効果」と命名したことで、問題と現象そのものの関連フレームが明確になり、さらにはまったく新たな角度からのアプローチを可能とするのである。

 すなわち、そこに第三の問いが生まれる。

 「おぼん効果」を上昇させる要因には、ほかに何があるのか?

 社員Bが女子社員ならおぼん効果は増大する。さらにはOL制服を着ていればより増大は大きい。メイドコスやバニーガール姿ならばさらなるおぼん効果の上昇が見込める。いっぽうで、くの一装束だとおぼん効果は減少するようにみえる・・・

 話がだんだんズレてきた。


命名することで取扱が楽になる


 湯呑みをお盆に乗せたほうが丁寧になる。このような複雑な概念・現象に、適宜に名前をつけることは、ゲーム開発現場ではとくに有用である。

 ・タイミングをあわせてボタンを押す行為を「目押し」

 ・格闘ゲームでジャンプで相手を飛び越えてガード方向の反対から攻撃判定を当てることを「めくり」
 
 ・走査線の1ラインごとにスクロールをさせる技術を「ラインスクロール」(カプコンでは「すじ流れ」と呼んでいるらしい。カプコンの用語はなぜだかへんてこ)

 ・CPUの計算時間が走査線回帰時間に間に合わないことを「処理落ち」(カプコンではなぜか「引きつり」と呼んでいるらしい。カプコンの用語は、おかしい)

 ・タイトーではレベルエディタを使ってレースゲームのコース上に看板などを置いていく作業を「田植え」とよび、そのためのレベルエディタツールを「田植機」と呼んでいた。


 などなど、ゲームの仕様や現象、開発工程そのものなどにそれぞれ名前を作り出し割り当てることで、みなの共通認識として浸透しやすくなり、開発チーム内でのコミュニケーションが円滑になる。

 すでに開発現場で一般化された用語はそのまま使えばいいし、手がけてるゲームに特有のものについては、勝手に分かりやすい名前をつけておこう。


まとめ

命名の重要性がどれだけ伝わったか、ぼくの稚拙な文章能力ではちょっと自信がないけど、わかっていただけたなら幸いです。

 さて、ここで例題タイム。

 いまゲーム業界をなやましている

 「おもしろいゲームが、かならずしもその面白さに比例して売れるとは限らない。(でも売れるゲームってたいていは面白い)」

 という残念な現象に、名前をつけるとしたら、どうする?
 



 ぼくのひとまずの回答は、「ゲームのハリウッド化」現象ですね。もっといい名前を思いついたひとは↓のツイッターボタンを押してツイートしてみてね!

 今回の話はどうだったかな。それではみなさんアスタルエゴ~

2013年6月19日水曜日

第14回 ゲームプランナーの「伝える技術」4つの基本


 こにゃにゃちは!かいぽんです。

 以前、ゲームプランナーに必要なスキルは、「考える」「伝える(共有)」「やる(実行)」「試す(トラブルシュート)」だ、という話をしました。

<参考エントリ>
第2回 ゲーム企画屋さんに必要なスキルとは(1)
第3回 ゲーム企画屋さんに必要なスキルとは(2)


 今回はそのなかの「伝える」技術のうち、4つの基本重要スキルについてのお話しです。

 ものごとをチームメンバーに伝え、その内容をチーム全体で共有するには、文書作成(ドキュメンテーション)がとても大事です。プランナーの仕事とは、この文書作成そのものである!と言っても過言ではないぐらい重要です。

 さて、この伝えるための文書作成における基本は、以下の4つに集約されると考えています。


<4つの基本>

  1. リストを作る
  2. 表を書く(マトリクス)
  3. 図を描く(チャート)
  4. 名前をつける(命名)

 プランナーの仕事とは、いってみればこの4つだ!これだけは絶対にできるようになっておけ!なにかに困ったら、この4つのうちのどれかで解決できるはずだ!というのがわたしの教えです。


1.リスト


 リストとは、つまり箇条書きです。直前に書いた上の4つの項目もリストです。リストに書く内容、つまりリストの種類はおもに2種類に大別されます。

 わかりやすいほうの種類からいうと、たとえばアイテムリストや武器リストなど、ゲーム仕様関わる内容のリスト。これらは「仕様リスト」といいます。ゲームの仕様概要を箇条書きにした文書なども、リストといえるでしょう。

 その他にもう1種類、タスクリストやバグリスト、発注リストなど、ゲーム制作のプロセスに関連する内容のリスト。個人的にはこれを「やることリスト」と呼んでいます。備忘録や更新履歴などもゲーム制作には欠かせないリストといえます。

 リストはおもにテキストエディタを使って記述します。エクセルを使う人もいますが、わたしはいつもテキストエディタです。
 ゲームプランナーは、とにかくなにをするにもまずこのリストを記述してから取りかかるのが基本中の基本の手順、といえます。すべての作業の第一歩がこのリスト作成です。

 なんでもかんでもまず箇条書きにしましょう。箇条書きにして悪いことはなにひとつありません!


2.表(マトリクス)


 表は表です。マトリクス表ともいいます。リストとリストの組み合わせが必要な事柄は、表に展開することで非常に簡潔に分かりやすく記述することができます。

 例えば以下の2つのリストがあり、それぞれ衝突判定があるとします。

自機の武器リスト

  • メインショット1
  • メインショット2
  • サブウェポン1(対地ミサイル)
  • サブウェポン2(対地レーザー砲)

自機以外のオブジェクトリスト

  • 空中敵
  • 空中障害物
  • 地上敵
  • 地上障害物
  • 敵弾1
  • 敵弾2
  • アイテム


 これを表に展開すると、たとえばこのようになります。(あくまでもサンプル例なのでゲーム的な内容についてはご容赦を)

表のサンプル

どうですか、このわかりやすさ感!さすがやでえ!

 この対応関係を、文章や箇条書きで説明するには非常に冗長になってしまいますが、表にすることで簡潔確実に伝わります。(サブウェポン2の対地レーザーは特別で、障害物を貫通して空中敵をもなぎ倒します!という例です)

 表は、エクセルやパワーポイントなどを利用して書きます。(上図はパワポで書きました)

 より実践的なテクニックとしては、一旦テキストエディタでタブ区切りで表組みを作っておき、エクセルにコピペして整形する、といった方法も有効です。

 なお、これら説明用の表のほかに、実際のデータ実装にエクセルを利用してプランナーが各種の表を作成するケースもゲーム製作現場では多くみられます。この場合は「伝える技術」というよりも実装の技術領域ですね。

 文章やリストの内容を、表のかたちに展開するスキルはとても重要です。

 また上記の、仕様説明以外にも、作業プロセスを表の形にして管理するケースもあります。

 たとえば、ステージ制作の作業工程(仮モデリング→コリジョン作成→イテレーション→本モデリング→テクスチャ作成→ライティング)などの進捗を各ステージごとに管理するには、リストでも可能ですが、表形式にしたほうが便利です。


3.図(チャート)


 図を使って説明したほうがよい事柄、UIの指示書、ゲーム進行のフローチャートなどは、簡単なチャート図を使って伝達するのが簡明確実です。
じゃんけんの関係のチャート図サンプル

 手書きのポンチ絵でもいいのですが、おもにはパワーポイントやエクセル、VISIOなどのツール類を使って作成するのが主流ですね。

 じゃんけんの関係は文章で説明してもシンプルなので、このぐらいのことをわざわざ図に描くかどうかは作業コストとの相談になりますが、より複雑な関係でもシンプルな図に展開できれば、伝達コストは大幅に圧縮できます。

 また、ゲーム進行を記述するフローチャートは超重要です。ゲームプランナーたるものフローチャートは絶対に書けるようになっておきましょう。まあそんな難しいものではないですが。


4.名前(命名)


 名前といっても、キャラクター名やアイテム名を考えることではありません。たとえばさきほどの「じゃんけんの関係」というのが、ここでいう「名前をつける」ということに該当します。

 格闘ゲームで、敵を飛び越えてガードの裏から攻撃することを「めくり」と呼ぶ。
 レベルエディタで、樹木やギミックを置いていく作業のことを「田植え」と呼ぶ。(昔のタイトーではw)

 これらはすべて、名前をつけることによって、わかりやすく説明できる例です。

 複雑な仕様や作業に適宜なわかりやすい名前をつける、命名することで、その後のハンドリングが非常にしやすくなります。

 ほかにも、よくあるわかりやすい例では、「新機軸!ほにゃららシステム搭載!!」とかの名前といってもいいでしょう。セールストークになるならないはまったく別の問題ですが、すくなくとも開発チーム内ではこれらの呼び名があることによって、コミュニケーションのロスが大幅に防げます。

 名前をつける、意外と重要です。


まとめ


 よく出来たプランナーは、企画書や仕様書に文章をほとんど書きません(シナリオライターは別ですがw)。

 リスト、表、図、命名の4つのツールですべてを説明するのが訓練されたプランナーというものであります。

 ゲーム仕様を文章に書いて説明するのは下策であり、リストや表図に展開して簡潔に伝えるのが上策というものです。そもそも3行以上の文章書いてもだれも読まないし!


 今回は、伝える技術のお話しでした。いかがでしたでしょうか。文章だとやっぱり説明が大変ですね。
それではみなさままたお会いしましょう。ばいなら~!

2013年6月18日火曜日

第13回 アイデアとは、目的と手段のタペストリーだ~アイデアの正体とは(5)


 こんちゃーす!おひさしぶりでございます。
今回のネタは「アイデアの正体」シリーズ最終回!

 アイデアとは、目的と手段が織りなすタペストリーだよおっかさん。

というお話しであります。
これまでのINDEX
その1 アイデアの正体とは(1)
その2 良いアイデア、悪いアイデアの見分け方~アイデアの正体とは(2)
その3 アイデアはタコ足なのよね~アイデアの正体とは(3)
その4 目的が先か、手段が先か、それが問題だ・・・~アイデアの正体とは(4)
今回(最終回)→ アイデアとは、目的と手段のタペストリーだ~アイデアの正体とは(5)

エジソンの電球


 これまでご説明してきた「アイデアとは目的と手段の組み合わせ」。これを、またまたエジソンの電球を例にとってみましょう。

白熱電球を作って夜を明るくする
エジソンの電球

 目的は夜を明るくすること、その手段は白熱電球を開発すること、です。さて当時の電球といえば、すぐに燃え尽きてしまい、とても実用的といえるものではありませんでした(電球そのものはエジソンの発明ではなく、当時すでに存在していました)。白熱電球をつくるといっても、ほいっと簡単につくってはいすぐ照明に使える!というわけにはまいりません。

 ここにエジソンの発想の偉さがあります。エジソンはすぐに切れる電球をなんとか長寿命化し、白熱電球による夜間照明を実現しようという、イノベーションを画策したのであります。


チャンクダウン


 ある手段があったとき、その手段を目的としてさらに下層の手段を発生させることができます。
この場合、「白熱電球をつくる」という手段が目的に変化して、さらに下層に「長寿命化する」という手段を生み出しています。

白熱電球を長寿命化する
下層の手段が生まれる

 さて、ここで「長寿命化する」という手段もさらに目的化して、もう一段下層の手段を生み出してみましょう。

さらに下層の手段を生む

 ガラス球を真空化し、さらに京都の竹を使うなどフィラメントを工夫する、という手段が生まれます(実際には試行錯誤のすえ生み出されたわけですが)。この場合の手段はタコ足、ひとつの目的から複数の手段が生える、になりました。

 このように、手段を目的化してそれを達成するための手段を掘り下げていくことを、専門的には「チャンクダウン」「ブレイクダウン」などと称します。なおぼくはチャンクダウンと呼ぶ方が好きですね。なんかおいしそうだから。


ボトムアップ


 チャンクダウンとは別に、目的を手段と捉えてさらに上位の目的を見出していく、こともできます。これを「ボトムアップ」といいます。(なおこの言い方はあんまり好きじゃないんで、もっといい表現ないかな)

 今回のエジソンの電球の例でいえば、目的「夜を明るくする」とは、いかなる目的の手段たりうるのか?と問うことがボトムアップです。その答えとしては「世の中を豊かにする」という新たな目的につながります。

 さらに「世の中を豊かにする」という目的を手段とし、ふたたびボトムアップしていけば「ワシが儲ける」だったり「オレ様の天才を証明する!」だったりに行き着きます。

ボトムアップしていく



 余談ですが、さらにこれらの目的を手段とし、さらなる上位の目的を見出すボトムアップを繰り返していくと・・・、最終的には「宇宙平和」だとか「神への挑戦」だとか、哲学やら宗教やらの領域に行き着くのでオススメしません。ボトムアップはいいかげんなところでやめておきましょう。


ボトムアップからの~、チャンクダウン!


 ボトムアップした目的からまったく新たな手段を生み出すことができます。これが必殺技のボトムアップからの~チャンクダウン!です。(個人的にはアイデアドリフトと呼んでますが)

 エジソンの例でいえば、世の中を豊かにする(目的)に対しては、蓄音機をつくったり(手段)、映写機を発明したり(手段)、電話を開発したりすること(手段)も、夜を明るくすることにおなじ「手段」になります。

 そういえばエジソンは、そのライバルであるもうひとりの天才技師ニコラ・テスラとは対立していました。テスラの野郎をぶっつぶすには、直流電流の最強を証明するのが最適です。そのためエジソンは交流電流をつかった動物処刑実験を画策したりとかしてたそうです。

 そういった話を図にすると、以下のようになります。

エジソンの脳内メーカー??

 エジソンが実際にはどのような発想をして数々の発明をおこなったのかは知りません。これまでのはなしはすべて個人的な想像です。今回はこの図が正しいかどうかは問題ではなくて、このようにロジックツリーに展開して考えるのがだいじだよ。というサンプルですので、そのへんご留意ください。

 なお、ボトムアップからの~チャンクダウン!と同様に、そのまったく逆を行う、チャンクダウンからの~ボトムアーップ!という技もあります。これもアイデアドリフトの一種。
 上の図でいえば、交流で処刑実験という手段から「見物料をとって見世物小屋を経営する」みたいな別の目的を見出す技ですね。


まとめ


 アイデアとは、目的と手段が織りなすタペストリーだよおっかさん。

アイデアツリータペストリー


 すばらしいアイデアを生む作業とは、このようなアイデアツリーのタペストリーを織り上げていく作業にほかなりません。

 ・手段を目的化して掘り下げる、チャンクダウン
 ・目的を手段ととらえ上位目的を見出す、ボトムアップ
 ・ボトムアップしてから新たな手段を見つける、ボトムアップからの~チャンクダウン!
 ・生み出された手段から新たな目的を見出す、チャンクダウンからの~ボトムアーップ!

 この4つの技を使いこなして、みなさんも自分の「アイデア」を織り上げていきましょう。わたしもいつも使ってます!


おまけの余談


 アイデアタペストリーは「マインドマップ」に似てますね。でもマインドマップは、チャンクダウンには強くてもボトムアップには弱い、という点が残念です。多くのマインドマップはトップから書き始めることを推奨しているようですので。適当な中間点からスタートできればいいのですが。
 ましてやボトムアップからの~チャンクダウン!などの必殺技に対応してるマインドマップツールってちょっと見たことがないかもです。もっとも使い方を工夫すれば似たようなことは可能かもしれません。
 アイデアタペストリーを描くための強力なツールの登場が待たれますね。


 今回のお話しで、アイデアの正体シリーズ全5回は終了です。長かった・・・。みなさまおつきあいありがとうございました。どうでしたか面白かったでしょうか。


 それではみなさままた会いましょう、ばいちゃ~!

2013年2月1日金曜日

第8回 「スイミング・プール」にF2P(フリー・トゥ・プレイ)の真髄をみた!


 金沢に「金沢21世紀美術館」という現代美術館がある。

 多くの公立美術館が赤字経営で苦しむなか、この21世紀美術館は2004年のオープン以来毎年のように200万人以上の入館者数を集めており、地方公共団体が運営する美術館のひとつの成功モデルとして有名となっている。

 美術館の建屋自体がひとつの現代アートといったかまえで、円形の建屋の周囲全面がガラス張りで未来感溢れたつくりとなっており、内外部からの見通しよく、またその敷地も塀壁ない開放的な芝生の空間となって周囲の街並みのなかに佇んでいる。

金沢21世紀美術館
金沢21世紀美術館
建屋内より

 この美術館の特筆すべきは無料開放ゾーンの充実ぶりである。美術館内のかなりの部分、数多くのアート作品が無料ゾーン内に展示されており、その開放的な敷地の雰囲気とも相まって市民のだれもが気軽に立ち寄り、アートに触れることができるよう配慮されている。

 全体としてこの21世紀美術館は、現代美術アートというよりはいっこのアミューズメントパーク的な趣きがあり、美術に興味のない方や子供たちにもなかなかに楽しめるつくりになっている。みなさまにおかれましても金沢を訪れた際には、ぜひ立ち寄られたい。



 スイミング・プール


 その21世紀美術館の恒久展示品のひとつにレアンドロ・エルリッヒ作「スイミング・プール」という作品がある。

スイミング・プール
レアンドロ・エルリッヒ 「スイミング・プール」

 一見するとへんてつのない小さなプールであるが、よくみると中に人?人が??
ええ~?どうなってんの??

 というアートなのであります。

 いまひとつ解説をすると、このプールの上側(写真の撮影位置)は無料ゾーンに含まれていて、タダで見ることが出来ます。

 しかしながらプールの下側に行くには、企画展または特別展の有料チケットを買わないと立ち入れません見るだけなら無料だけど、プールの中に行くには有料だよ~。てな仕組みになってます。



 これはまさにゲームでいうところのF2P(フリー・トゥ・プレイ)ではなかろうか?


 と思いませんか?すごいよね。美術館で。

 この展示をよく見てみると、プールの上にいる無料プレイヤーと、プール内にいる課金プレイヤーとが、水面越しにお互い手を振り合ってコミュニケーションとったりして楽しんでいます。

 無料プレイヤーと課金プレイヤーの両方がいることではじめて成立すると、そんなインスタレーションになっているのです。(こういう展示物は21世紀美術館でもこのプールだけです!)


 すなわち期せずして、課金プレイヤーがいなければ成り立たない展示物、となっているわけです。

 ここで注意していただきたいのは、これは一般によくいわれる、「お金を払ってるプレイヤーがいるからこそ商業的に運営がなりたち、ために無料プレイヤーも楽しめる」、という文脈とはまったく異なっているという点です。

 というのも、無料プレイヤー側からしてみれば、課金プレイヤーが水の底に沈んでいるのを見てアッヒャッヒャwwwとかいって楽しむ作品であり、もし課金プレイヤーがいなければ(水底に誰もいない状態を想像してみてください)、単なる何の変哲もないプールにしかみえません。「これじゃ出来損ないだ。アートにならないよ」(山岡士郎風)ということになってしまいます。

 そして水底にたむろしてる課金プレイヤーを見て、「自分もそこへ行ってみたい」というモチベーションが無料プレイヤーにも生まれるわけですが(これはわりと普通の導線ですね)、さてお金を出して課金プレイヤーとなって水底に行ったならば、こんどは上を見上げて無料プレイヤーと戯れなければ今一歩楽しくないわけです。

 このような意味で、無料プレイヤーと課金プレイヤーが互いに互いを見世物とする構図が生まれ、両者がともに存在しているからこそ、両者ともが楽しめる、という寸法になっているのです。


 そこにこそ僕はF2P(フリー・トゥ・プレイ)の理想形を感じました。


 重ねて強調しますが、特に課金プレイヤーが無料プレイヤーにとっての見世物コンテンツになる、という点は、実に平和的?でたいへん素晴らしい仕組みではないでしょうか。

 この構造を実際のゲーム設計として組み込むことは実現の難しい課題といえますが、すくなくともF2Pの未来になにかしらのありようをみた思いであります。


おわりに


 今回のお話しはいかがでしたでしょーか。普段とは違う硬い書き出しで始まってどうなることかと思いましたが、それはさておき、美術館ひとつとっても、ゲームデザインのヒントになることがけっこうあるものですね~。 

 さて、かように21世紀美術館は素晴らしい施設で、「スイミング・プール」以外にも、数々のたのしげな展示品があります。金沢を訪れた折にはマジぜひ行ってみられるといいかと思います。場所も金沢城や兼六園のすぐ隣だから行きやすいしね!ぼくもしょっちゅう行ってるよ!

 あ、あとね。この「スイミング・プール」、雨がふっちゃうと上側(無料ゾーン側)は立ち入り禁止となります(滑るかららしい)。訪れる際には天候にもご注意ください。(他の展示物は雨でも大丈夫ですが、屋外展示もあるので晴れるにこしたことはありません。)

 それではみなさんダスビダーニャ!


金沢21世紀美術館公式サイト